浅葉のワーフリ日誌32:ボーダー芸に失敗した者

昼の12時を少し回った頃、おれの机の上に置いてあるスマートフォンが振動した。しかもそれは一度ではなかった。どうやら、おれのLINEにいくつかのメッセージが届いたようだ。スマホを開くとそこには、闇のワーフリ団たちが書き込みを続けている様子が見て取れた。これは、ろくでもない予感がする。

そうだった。今日は、ワールドフリッパーの一大エンドコンテンツ「コンバットダイバー」の結果発表日である。コンバットダイバーとは、パーティのかぶりなしで、どんどん強化されていくボスを何匹倒せるかを競うコンテンツ。上位ランカーには称号が授与され、1000位以内に入ると、その中でも一番ドヤれる称号が与えられるのだ。

我らが闇のワーフリ団では、この1000位以内をやりこみの指標と勝手に定め、1000位内に入れば「通ってヨシ!」となる。いついかなるときもマウンティングの機会を見出そうとする、どうしようもないおれたちの世界の流儀はあまりにも不毛だが、勝った瞬間の甘美な感覚を覚えると、この地獄が心地よく感じてくるのだから不思議だ。

今回は2回目の開催となり、おれも当然参戦している。

今回のボスは雷有利だったが、実際のところパワーフリップという仕組みに秀でたパーティで、次から次へと現れる大王イカの触手をぶちんぶちんと斬っていくというコンテンツだった。これがなかなか爽快で、面白いコンテンツだった。

そこそこ遊んだし、まあ1000位とかいうて余裕でしょう……と思っていたのだが。

ご丁寧にマーキングまでされて、おれの順位が闇のワーフリ団のLINEに投下される。

その順位はなんと……。1143位。

おれは、1000位入賞のボーダーを7~8体と読み間違え、途中からランキングも確認せず『冤罪執行遊戯ユルキル』とかに興じていたのだった。
過去の発言からも、そのあまりに浅はかなボーダー予想が読み取れる。

おれ「おいいいいい、ボーダー上がってるの教えろよ……!お前らおれの順位、締め切り前にチェックしてただろ!」

「締め切り前に教えていいことひとつもないでしょ」

 

「水着エクリールを持っていても、”1000位以内”には入れんか~」

「ままま、ランキングがすべてではありませんからね。1000位に入れなかったからって、悲観しないでください。水着エクリール持ってるのすごい!」

「いつまでその”戦陣の宴”の称号つけてるんです?過去の栄光にすがるのはやめてください」

確かにおれは今、直近で開催された戦陣の宴の上位称号をつけ、マルチに意気揚々と参加している。しかし、今日から奴らは、コンバットダイバーの称号をつけて、おれのマルチに襲い掛かってくるだろう。

水着エクリールで手にしたはずの勝利が、コンバットダイバーの結果によって、風に吹かれた砂山のように、ゆっくりと削られ、失われていく。次のコンバットダイバーが行われるまで、おれは亀のように丸まり、この暴風に耐えるしかないのだ。

 

ワールドフリッパーから逃げるな。