浅葉のワーフリ日誌06:全世界を盛り上げにいくの

仲間内によるガチャ煽りが許された地獄の”ワーフリ部”にあえて身をおく者たちがいる。これは、普通に『ワーフリ』を楽しむうえで絶対に必要のない行為を振り回すことでしか生きてけない悲しい漢たちの物語である。

ガチャで限定キャラをひくのはできるだけ早いほうがいいし、早くひけたら一秒でも早く限定ガチャが終わることを願い、ほかのメンバーに出ないことを祈るのがワーフリ部の腐った日常である。しかし、『ワーフリ』×『涼宮ハルヒの憂鬱』コラボは期間が長く、サービス中の単発ガチャやベーシックインカム、そのうえストーリー追加などでもらえるガチャ石によって限定コラボキャラを引けたワーフリ部メンバーも増えてきた。こうなるとガチャ煽りもなくなり、凪のような平和な時間が訪れる。おれたちは争うために『ワーフリ』をやっているわけじゃないんだよな……とコーヒーを飲みながらLINEグループの会話を眺めていたとき、突如として画面から槍が飛び出してきた。

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全世界盛り上げとるか、という煽りとともに「全世界を盛り上げにいくの」という称号の取得画面が貼り付けられ、ワーフリ部に緊張が走る。
この称号は、『涼宮ハルヒの憂鬱』コラボクエストを500回クリアしたときに得られるもので、普通に生きていると目を背けそうなものである。だいたい100回もコラボクエストをプレイすれば目当ての報酬は手に入るし、そこから先は趣味の世界。しかし500回となるとなかなか覚悟が必要で、スタミナを温存できるマルチプレイ参加でやると張り付きでやっても半日かかりそうな代物だ。時短のためには、自らスタミナを吐き、わりと入手機会の少ないスタミナ回復剤を飲み、ソロで高速周回できる低難度のものをぐるぐる回すのだが……。

「全世界を盛り上げにいくの称号とってるけど、あんた『ハルヒ』そこまで好きだったっけ」

「ガチャバトルが終わりつつある今、ここのメンバーを煽れるのはもう”コレ”しかない。全世界盛り上げられないまま終わるんですか?」

ここはワーフリ部。ガチャ煽りに飽き足らず、わずかな隙を見つけて煽りをねじこんでくるモンスターたちの巣窟なのだ。

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その日から、また地獄が始まった。「全世界を盛り上げにいくの」称号を取得したものたちが、LINEの中で暴れまわる。取得していない者は無言を貫き、スタミナ回復剤を温存する。いつか来るであろうスタミナ回復剤を大量につぎこみたくなるクエストを夢想し、”こんな無益な争いのためだけに貴重なアイテムは使わん”というわけだ。

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涼宮ハルヒの憂鬱』コラボクエストを500回クリアすることで、『涼宮ハルヒの憂鬱』へのコンテンツ愛を誇れる称号が手に入る。それは確かに価値あることかもしれない。しかしだ、こんな争いを続けていていいのか……。おれは手元に残されたスタミナ回復剤を眺めながら、思い悩んだ。おれがここで争いに参加すれば、ワーフリ部はますます殺伐としてしまうのではないだろうか。そんな平和を祈るおれの指は、自動人形(オートマタ)のように動き始める。

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布団にこもり、スタミナ回復材をがぶのみし、ひたすら敵をせん滅していく。1回のバトルは数秒、得られる報酬は僅か。そして……

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称号を取得し、LINEに貼り付け、「全世界盛り上げられんやつおる?」と打ち込んだ瞬間、夏の熱気を切り裂くような風が心地よくおれの体をかけめぐっていくのを感じる。

「胸を張ってハルヒが好きっていうためには、これ”マスト”でしょ」

「スタミナはガチャ石でも補充できる。称号を取らない理由を探すな」

思考を挟むことなく、口から空気のように称号煽りが出てくる。
 

全世界を盛り上げにいくの! 

 

『ワールドフリッパー』から逃げるな。